60歳から65歳で年金を受給しつつパートで働いている方の中には、「子どもの扶養に入るべきか?」と悩む方もいるでしょう。
実は、年金受給者の方でも一定の条件を満たせば、子どもの扶養に入ることができます。ただし、「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」ではメリットや条件が異なるので注意が必要です。
本記事では、扶養の基礎知識である「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」のそれぞれの違いを説明し、扶養に入るためのメリットと条件をわかりやすく解説します。
扶養には「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」がある
扶養には、税金に関係する「税制上の扶養」と、健康保険に関係する「社会保険上の扶養」の2種類があります。
以下で、それぞれの概要とメリットについて説明します。
税制上の扶養とメリット
「税制上の扶養」とは、所得税法で定められた扶養控除を受けられる制度です。
扶養控除により、扶養する側(子ども)の税金の負担(所得税や住民税)が軽減されます。
親を扶養に入れることで税負担が下がり、子どもの手取り収入が増える可能性があります。
社会保険上の扶養とメリット
子どもが勤務先で加入する社会保険の被扶養者となる制度です。
「社会保険上の扶養」に入ると、扶養される側(自分)は健康保険料の支払いが免除になります。
また、扶養する側(子ども)は親の分の社会保険料を追加で払う必要もありません。
健康保険料は年間で十数万円以上になるので、その負担がなくなるのは大きなメリットです。
子どもの扶養に入る条件
次に、年金を受給されている方が子どもの扶養に入るための条件を説明します。
「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」では条件が違うので、それぞれ確認しておきましょう。
◆税法上の扶養に入る条件
税法上の扶養に入る条件は、以下のとおりです。
①自身の1年間の合計所得が48万以下
②子どもと生計を一にしている
※別居の場合は子どもが仕送りしている(生計を一にしていることを証明する必要がある)
③自身が個人事業主やフリーランスではない
①自身の1年間の合計所得が48万以下
まず、最も重要なのが1年間の年金とパート収入の合計所得が48万円以下であることです。ここで注意したいのが「合計所得48万円以下」の計算方法です。
年金収入の場合は、受け取った年金額から公的年金等控除(110万円)を引いた額が所得となります。
一方、パート収入の場合は、給与収入から給与所得控除(55万円)を引いた額が所得になります。
計算の例:
【年金を年間120万円受け取っている場合】 120万円−110万円(公的年金等控除)=10万円 【パート収入が年間60万円の場合】 60万−55万円(給与所得控除)=5万円 合計所得=「10万円」+「5万円」=15万円 この場合、合計所得48万円以下の条件を満たします。 |
②子どもと生計を一にしている
次に重要なのが、子どもと生計を一にしているという条件です。同居している場合は比較的分かりやすく、家計を共にしていることで証明できます。
しかし、別居している場合は、子どもからの定期的な仕送りがあり、その仕送りで生活していることを証明する必要があります。
例えば、毎月の仕送りの振込記録や、仕送りが生活費の多くの割合を占めていることを示す書類が必要になります。
③自身が個人事業主やフリーランスではない
年金を受給しながら働く場合、就業形態にも注意が必要です。個人事業主やフリーランスとして働いている場合は、原則として税制上の扶養に入ることはできません。
◆社会保険上の扶養に入る条件
社会保険上の扶養に入る条件は、以下のとおりです。
①1年間で扶養される人が受け取る年金と収入の合計が180万円未満
②自身の収入が子どもの収入の半分より少ない
③扶養する人子どもの収入で生活している
※別居の場合は子どもからの仕送り額より、自分の収入が少ない
④75歳未満である
①1年間で扶養される人が受け取る年金と収入の合計が180万円未満
社会保険上の扶養の条件は、税制上の扶養よりも少し複雑です。まず、基本となるのが収入の条件です。
「1年間で受け取る年金」と「収入」の合計が180万円未満である必要があります。ここでいう収入には、年金やパート収入だけでなく、預貯金の利子収入や不動産の賃貸収入なども含まれます。
例えば、年金を年間120万円受け取っている場合、パート収入は年間60万円未満に抑える必要があるということです。
②自身の収入が子どもの収入の半分より少ない
扶養される側(自分)の収入が、子どもの収入の半分より少ないという条件もあります。
例えば、子どもの年収が500万円の場合、自身の収入は250万円未満でなければなりません。ただし、先ほどの180万円未満という条件の方が厳しいため、実質的にはこちらが基準となります。
③扶養する人子どもの収入で生活している
さらに、扶養する子どもの収入で生活しているという実態が必要です。
別居している場合は、より具体的な証明が求められ、子どもからの仕送り額が、自身の収入を上回っている必要があります。
例えば、子どもからの月々の仕送りが8万円で、自身のパート収入が5万円という場合は条件を満たします。
④75歳未満である
加えて年齢制限もあります。扶養される親は75歳未満であることが条件です。これは、75歳以上になると後期高齢者医療制度に加入することになるからです。
なお、これらの条件は、子どもが加入している勤務先の健康保険組合によって異なる場合があります。
より詳しい条件は、子どもの勤務先の人事部門や健康保険組合に確認することをおすすめします。
子どもの扶養に入るデメリットはあるの?
税制上の扶養については、子どもの税負担を軽減できるというメリットがあるだけで、特にデメリットはありません。
一方、社会保険上の扶養については注意すべき点があります。特に65歳以上の方は、介護保険料が高くなる可能性があるということです。
介護保険料は世帯の所得に応じて決まるため、収入の多い子どもの扶養に入ることで、介護保険料が高くなってしまうこともあるからです。
ただし、介護保険料が増額になったとしても、社会保険上の扶養に入ることで軽減される健康保険料の方が大きい場合が多いです。
それぞれのメリット・デメリットを考慮して、自分に合った選択をするといいでしょう。
まとめ
年金を受給しながら子どもの扶養に入ることで、税金や保険料の負担を軽減できる可能性があります。ただし、これは必ずしもすべての方に最適な選択とは限りません。
例えば、まだまだ積極的に働きたい方にとっては、収入制限のある扶養に入らず、自由に働くことを選ぶのも一つの方法です。
また、税制上の扶養のみに入り、社会保険上の扶養には入らないという選択肢もあります。
大切なのは、「扶養に入らなければならない」という考えにとらわれないことです。
ご自身の生活状況、働く意欲、収入の希望など、様々な要素を考慮しながら、最適な選択をしていきましょう!